第45回 My 鎌倉 |
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今月のゲスト
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鈴木 正行さん
家業の表具店を継ぎながら
日本の表具技術の伝統を守る
[05.05.16 神武堂表具店にて] |
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すずき・まさゆきさんのプロフィール |
昭和18年(1943年)生.鎌倉で生まれ育ち、実家の家業を継ぐ.
「鎌倉市表具師会」元会長.
国家検定表具一級技能士、職業訓練指導員免許など取得.
鎌倉市技能優秀者、鎌倉市技能功労者として表彰される.
寺社の古美術修復経験豊富.
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■北鎌倉での創業
神武堂表具店の創業は昭和6年です。
おやじ(初代)が創業しました。わたしが2代目で、今は息子が後を継ぎ3代目になっています。
神武堂表具店という店名の由来は、開業の日が当時の祭日「神武天皇祭」
(4月3日)であったからと聞いています。
表具師、経師(きょうじ)屋、大経師。
表具師も経師屋も同じ意味です。大経師(だいきょうじ)と名乗っている人もいるようです。
経師の親方というような意味でしょうか。
■技術の起こり
表具の技術はお寺の宝物の修復から始まったものと思われます。
曼陀羅の絵や仏画や教典などが日本に伝わり、それをお寺でどのように表現するのか?
という問題を、掛軸や屏風という方法で解決してきたのが表具の技術の起こりのような気
がします。
■技術の要素は紙と糊
表具の技術は自分の腕に刻み込むものですが、なにが大切かと聞かれると「紙」と
「糊」でしょうか。
屏風と掛軸では技術が違うのですが、どちらも共通して紙と糊が大切です。
千年保存されたものを修復したり、今後千年保つように表装して欲しいという依頼が
あったとき、紙が残っているということが必要条件ですから紙の質が大切です。
また、その紙をきれいにはがせるような糊がないと、将来の修復はできません。
ただ、表具師が選択できるのは、下地だけで、表面の紙は絵描きさんが選ぶこと
になります。 |
(さまざまな刷毛)
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■古紙をあさる
(享保年間の和紙)
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屏風の場合ですが、下地の紙は一部を除いて古い紙の方が薄くて、丈夫で、きれいに仕上がります。
ですから、古書店や古書市に顔を出し、昔出版された辞書などを漁るようにして
います。この紙は享保年間に出版された辞書の紙で、引っ張ってみると強さが判るでしょう。
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■糊の進歩
昔は表具に必要な「古糊(ふるのり)」は自分で造ったものです。
古糊とは麩から造って、4〜5年寝かせた糊のことですが、原料は「銀生麩」(ぎんじょ
うふ)と呼ばれる物です。
銀生麩を溶き、釜で30〜40分ほど煮て、程々の固さになるまで煮詰め、それを瓶に
移し、水で蓋をしてその後水を流し、和紙の蓋をし、さらに木の蓋で密閉した後、縁の
下において数年寝かせて「古糊」を造ります。
掛軸用の「古糊」以外にも、「普通糊」が大切です。普通糊も生麩が原料で寝かせない
だけで製法は変わりません。
古糊が自家製でなく、メーカーから購入するようになったのは昭和45年頃からでしょう
か?
このころから、何社かの技術で「古糊」に変わる物が売りに出され、徐々に置き換わっ
ていきました。
右の写真は、使用中の化学糊です。
■屏風の技術
屏風を作るのにいろいろ技術がいりますが、枠の木をそろえることと、「ちょうつがい」をつけることがに特に技術が必要です。
これは余談ですが、枠は、屏風は木と木が45度、襖は直角(T字型)で接合します。
屏風の芯は格子状の桟で、障子の桟のようになっています。障子より細かい目です。
この桟に紙を表裏それぞれ合計8層(もしくは9層)重ね合わせて作ります。
芯から外に向かって順に
- 骨紙張(ほねしばり)
- べた張り
- 二辺蓑張(にへんみのばり)もしくは三辺蓑張(さんべんみのばり)
- 蓑押さえ
- 下袋
- 上袋
- ・ 表には雲肌麻紙(くもはだまし)または鳥の子紙(とりのこし)
・ 裏には紙または布地
といった塩梅です。
一部湿気除けのためにハトロン紙などの洋紙を使いますがほとんどは和紙です。
屏風は2曲(2枚折)から8曲(8枚折)まであり、全てサイズがそろっていないとさまになりません。
ですから、サイズがぴしっと合うことが大切です。
各々をちょうつがいで結びつけ、前と後の両側に開くようにします。
このちょうつがいをわたしたちは「紙つがい」と呼びます。
下の二枚の写真は、ひとつの屏風を開いたものです。どちらがわにも開くことができるのです。そのようにつがいをつけ、どちらから見てもきれいになっているようにするのが技術です。
(普通の開き方の裏側)
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(普通と反対の開き方でこちらがわが表)
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紙つがいの材料は和紙で、薄くて丈夫な紙を使います。先ほど申した古書市あさりは、昔の和紙を探すのが目的でたまに顔を出します。
紙つがいは、上と下の端は半分の長さ、中は2倍の長さの和紙が偶数枚使われます。
この分割の仕方が昔から伝わっています。強度を出すために出来た経験値でしょうか?
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左の写真は、古い和紙を張ってつがいをした段階です。
右側に見えている白木の穴は、竹釘を打っています。金属は一切使っていません。
右の写真は、高さ70cmぐらいの屏風のつがい部分、上半分です。長い部分(下側)とその半分の短い部分(上のほう)に分かれているのがわかりますか?
つがいはこの場合全部で4つです。
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■掛軸の難しさ
掛軸は、特に古い書画の修復に神経を使います。
まず、本紙(作品そのもの)を触ることが難しく、絶対に傷を付けてはいけません。
ぬるま湯とか水で本紙をはがし、煤(スス)を洗い落とします。煤は完全に洗わず少し残す場合があります。
古いものの良さ、古い感じを抜いてしまってはいけないからです。
表装の手順は、大まかなところでは、
- 本紙と各部の裏打ち(2回裏打ち)
- 切継ぎ(きりつぎ)
- 耳折り
- 形を整え
- 総裏打ち
- 仮張り
- 軸付け 完成
という順になります。
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(さまざま道具類)
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古い掛軸の修復の場合、表の布地(裂地)などをそのまま使う場合と、新しい
布地を使う場合があります。
新しい布地の場合には、本紙の煤の残し具合と合わせるように古さを出すこともありま
す。これを「時代をつける」などといいます。
本紙の張り方は、皺などがつくのはもってのほかですが、お預かりした本紙に折り目
がつかないよう細心の注意を払います。
わたしは、鎌倉市内の「日蓮宗大宝寺寺宝の掛軸20点」、「浄土宗安養院寺宝の掛軸」、「真言宗宝善院寺宝の掛軸、額装」や、横浜市の「曹洞宗正翁寺寺宝の釈迦涅槃図掛軸」他の修復など、数多くの寺院からの依頼を受け、大切な寺宝の修復をさせていただき、非常に多くのことを学びました。
■障子や襖の難しさ
先程来、美術品のことばかり申し上げていますが、ご家庭の障子や襖も、結構工夫が
必要です。
というのは、ご家庭はそれぞれ微妙に上下左右にずれがあり、このずれのあるままに
寸法をとり、ぴたっとはまるようにこしらえなけらばならないからです。建具は一枚一枚微妙に違うものなのです。
■中学生が表具の体験入学
昨年から、千葉県浦安市の中学生が表具の実習をするためにここに見えています。
今年(2005年)は6月22日の午後1時から実習しました。
(浦安市立日の出中学校の生徒さん)
「北鎌倉匠の会」を通して、いろいろな人に見学や体験をしてもらっています。
■表具教室
また、中学生だけでなく、成人の方で表装を習いたいという方に、毎週火曜日の
午後教えています。
みなさん楽しそうに掛軸づくりなどに励んでおられます。
■日本画を学ぶ
表具の技術向上につながるかと思って、私自身も日本画の佐藤平八画伯に弟子入りし
日本画を勉強中です。
いくつかの自作の絵を表装し、お店に飾っています。
どうでした。
こんなお話で表具の技術の一端がお解りになりましたか?
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(鈴木さんの作品もある店内)
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神武堂表具店
鎌倉市山ノ内753
北かまくら駅前
電話:0467-46-3559
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