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桜の開花日予想に取り組んだ動機
「桜の開花日予想」に取り組むようになったのは、おおよそ20年前に手がけていた
現役時代の“夢”にまでさかのぼります。その夢は、「気象データから米の
“作況指数をリアルタイムで予想”する」というものでした。
その夢は、いろいろな問題があるとされ、お蔵入りとなっていたものです。“現役引退”の日がだんだん近づくにつれ、
「定年後の趣味」としてなら、多少のリスクがあったとしても、その“作況予想”に取り組んでもいいのではないか、それにその“作況予想”の方法を応用して、
リアルタイムの“桜の開花日予想”にも取り組むことにすれば、自分の専門も活かせて楽しくすごせるのではないか、そういう強い気持ちがわいてきました。これが直接的な動機です。
幸い時代は、インターネット技術の著しい発展により、個人でも
“ホームページ”という形での “データ通信システム”が簡単に作れるようになり、高価だった
気象観測データも気象庁のホームページから無料で入手できる時代になっていました。
「もう、そういう時代になってきたのだ」と割り切って考えると、構想に弾みがつき、現在の「桜前線研究所」という「桜の開花日予想」と「米の作況予想」を毎日グラフにして提供するということをコンセプトにしたHPの構想が次第に出来上がってきました。現役を引退する半年前のことでした。
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“桜前線研究所”の開設
コンセプトが出来上がると、桜の開花日予想は、東京、京都、大阪というような大都市だけでなく、全都道府県でやろうと始め思いました。準備には多少時間がかかりましたが、
2006年2月には、ホームページ「桜前線研究所」を開設することが出来ました。
開設した当時は、タイに住んでおり、ホームページ作りについてはあまり知識がなく、出来上がったホームページは、ぎこちないものでした。それで、帰国後すぐに
KCNのホームページ作成講座に通い、作成技術を学び直しました。この講座のお陰で、現在のホームページの原型が出来上がりました。
現在、発信している情報は次の通りです。
◆ 春は「桜の開花日予想」:全国で55ヶ所の開花日の予想グラフ
◆ 夏は「米の作柄」:全国の米の作況指数の予想グラフ
◆ 秋は「紅葉前線」:主要都市の紅葉時期の予想グラフ
◆ 冬は「積雪情報」:雪の名所の降雪・積雪予想グラフ
上の四つの情報の中で、一番アクセスが多いのは、やはり、桜の開花日予想です。
ここでの桜の開花日予想は、何処の桜は○月○日に開花しそうだというのではなく、そこの桜は、今年の気象の傾向が過去に比べてこうなっているから、○月○日ごろ開花しそうだということが、グラフに示される傾向から、
訪問者自身も直感的に推定できるようになっていることです。それにこのグラフを前日までの最新の気象データで毎日を更新しているので、
リアルタイム予想にもなっています。更に
予測方法について詳細に説明しています。この三つの点が、“桜前線研究所”の“独自情報”として、訪問者に楽しんでいただいている点ではないかと思っています。
桜の開花日予想に取り組み始めると、
Webの世界がとても面白くなってきました。2008年からは、三春の滝桜、淡墨桜、荘川桜などの有名桜や、早咲きの河津桜、地元の玉縄桜の開花日予想にも取り組み始めました。
また、
リアルの世界では、それまではあまり行ったことがなかった花見にも、ずいぶんと出かけるようになりました。東京の靖国神社にある桜の開花日予想用の標本木の観察にも何回も足を運んでいます。ほとんど読んだことがなかった桜の本もよく手にするようになってきました。そして、
「鎌倉市内の桜の株数調査」に取り組んだり、
「玉縄桜をひろめる会」、「かまくら桜の会」に仲間いりさせてもらい、桜を育てたり、ひろめたり、愛でたりする活動に参加させていただきながら、知らず知らずのうちに桜そのものに引き込まれ始めています。
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標本木の前で開花宣言を待つ人々
東京靖国神社 (2009年3月) |
福島県 三春の滝桜 (2009年4月) |
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玉縄桜の開花日予想
地元鎌倉の桜である
「玉縄桜」の開花日予想には、2008年から取り組んでいます。玉縄桜の場合は、3月末に開花し、2月から3月の気温の影響を強く受けるソメイヨシノと異なって、2月に開花する早咲き桜であり、12月からの寒暖の影響を強く受けているようです。それで、
12月1日を起点とした下のようなグラフを作って開花日の予想を行い、そのついでに見頃日の予想も行っています。
グラフを見ると、積算平均気温がおおよそ550℃のラインに達すると開花し、650℃前後のラインに達すると見頃日を迎えることが分かります。
また、このグラフの傾向から積算平均気温が高くなる年か、低くなる年かは早い段階に決まることが分かります。グラフを見ると、1月中旬ごろには、その年の傾向がかなり明確になってきているからです。
玉縄桜をひろめる会が毎年開催している
「玉縄桜を愛でる会」の日取りも昨年からはこのグラフの情報を参考にして決めていただいています。
■ 桜の株数調査
開花日予想に取り組むようになってから、鎌倉市の木が「ヤマザクラ」であることを知りました。しかし、そのヤマザクラはもちろんのこと、
鎌倉に何本の桜の木があるのかは、誰も調査していませんでした。その時、桜の本数を無性に調査したくなりました。実際に数え始めるとなると、躊躇することもありましたが、めったにないチャンスとも思い、永年住んできた鎌倉市のためになれたらという思いと、また自分自身の退職記念のためという思いから、
2007年5月に「桜の株数調査」を開始しました。
鎌倉市における桜の地域別生育株数(2008年12月現在)
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地域名 |
生育株数(株) |
生育株数比率(%) |
1km2当たり 生育密度(株) |
鎌倉 |
5,790 |
37.4 |
407 |
腰越 |
1,463 |
9.4 |
348 |
深沢 |
2,940 |
19.0 |
358 |
大船 |
3,423 |
22.1 |
408 |
玉縄 |
1,868 |
12.1 |
417 |
合計 |
15,484 |
100.0 |
392 |
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市内の桜の株数を全部数えると言い出した時には、家人からは、「途方もないことでは。一体どれくらいかかるの。山の中はどうするの」等といわれました。それでも隠居してから日本地図の作成に取り組んだ伊能忠敬公に想いを馳せながら、また、日本の作付面積調査の歴史に想いを馳せながら、調査を続けました。
調査は、2008年12月に終了し、1万5,484株あることが分かりました。
この調査結果と調査手法の詳細を記述した調査マニュアルは「桜前線研究所」の統計調査のページに公開しています。
〜その後の株数調査〜
この種の統計調査には、数え違い等による誤差がつきものです。このため、2009 年の3月、桜の木であるかどうかが判別しやすい
開花期に、サンプル調査で、チェック調査を行いました。土地勘のあるところではほぼ正確に数えていましたが、そうでないところは、数え違いをしているところも見つかりました。しかし、全体的には、大きな誤りはありませんでした。
1万5,000本から1万6,000本あると思えば、統計学的にもほぼ間違いのない数字と思っています。
2009年11月には、玉縄地区に植栽されている
玉縄桜の株数調査を試みました。調査方法は、関係者からの情報収集と見回り確認調査の方法で行い、その結果、少なくとも100株以上はあることが分かりました。玉縄地区の桜の総株数に対する割合は、6%前後になっていると思われます。
〜桜の株数調査を通じて学んだこと〜
「桜の株数調査」では、市内を隈なく、里山の中を含めて、全て歩きまわりました。それを通じて、鎌倉市内のいろいろな桜と人に出会うことが出来ました。 |
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花の咲いていない時期は、なかなか桜が見えにくいのですが、探していると、桜の木の方から「ここにいるよ」といっているのかのように、桜の木々が目に飛び込んでくるような経験もしました。桜は開花の時も、葉桜の時も、紅葉の時も、そして冬芽の時もそれぞれに美しく、趣があることを知りました。 |
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いろいろな人と出会って、鎌倉の桜の話も聞くことも出来ました。山桜は生長が早く、木炭にすれば火付きもよいので、鎌倉の里山で栽培されていたという話も古い話ではないようです。鎌倉の人情にも出会いました。そして、鎌倉の自然、地理・地形、歴史、神社、仏閣、公園、学校、町並み、住宅街、交通、働く人々の姿等々、実にいろいろなことを見させてもらいました。
桜の株数調査を通じて、実際の株数が分かったことはもちろんですが、鎌倉のことについて、いろいろなことを学べてとてもよかったと思っています。 |
■ 「かまくら桜の会」のこと
「かまくら桜の会」 (高柳英麿会長) は、「鎌倉のさくらを大切にし、保存、啓発を行うとともに、さくらを友に市民友和を行うこと」を目的に2008年に設立されたグループで、
鎌倉市内で桜を通じて町づくりに想いを寄せている団体、個人からなっています。この「かまくら桜の会」には、桜の株数調査が縁になって、2008年から入会させていただきました。若宮大路にある花壇の手入れをしたり、桜の植樹をしたりするボランティア活動に、時々ですが参加させていただいています。季節に応じて花見、紅葉狩りのバスツアー、講演会等も企画されるので、これに参加するのも楽しみです。
■ 「玉縄桜をひろめる会」のこと
「玉縄桜をひろめる会」 (増田行治代表) は、鎌倉市の玉縄地区にあるNPO法人で、その名のとおり、フラワーセンターでソメイヨシノの実生苗から育成された
玉縄桜の普及活動をしている団体です。この「玉縄桜をひろめる会」には、2008年に入会して約1年が経ちました。マンション住まいなので、会の中心的な活動になっている玉縄桜の「里親」にはなることが出来ませんが、「玉縄桜の開花日予想」や「桜の株数調査」を通じて、お役に立てればと思っています。
■ 鎌倉に住んで思うこと
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現役時代に宿舎がたまたま鎌倉にあったからとはいえ、
鎌倉に住み続けられてきたことは、自分の「桜活動」にとって本当に良かったと思います。鎌倉にはたくさんの桜の名所があり、「ヤマザクラ」は市の木にもなっています。近くのフラワーセンターではいろいろな桜をみることも出来ます。家族も鎌倉が大好きで、今は、鎌倉は、大切な故郷となっています。 |
鎌倉に住んでいなければ、「玉縄桜」との出会いもそれを開花日予想の対象とすることもなかったと思います。また、鎌倉市の「桜の株数調査」についても同様なことがいえます。
これからもグローバルなWeb社会での桜活動と、鎌倉という地に住んでいるからこそできるリアル社会での桜活動の二つを軸にしながら、“桜前線研究所”を通じて、桜の開花日予想と桜に関連する統計調査の情報や季節の統計的グラフ情報の発信を楽しんでいきたいと思っています。 |
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