鎌倉にゆかりのある方にお話を聞く…第1回 My 鎌倉
今回のゲスト
竹内 謙さん(鎌倉市長)
鎌倉市長として「環境との共生」を提唱する竹内謙さん。食材、海洋資源の両面から「カマス」を見つめながら、食へのこだわりとともに自然とのつきあい方について、ハートウォームに、少し辛口に語っていただきました。

「旬」

 「旬」というタイトルでインターネット用の原稿を書いてほしいといわれて、ちょっと戸惑った。掲載が8月上旬というからだ。「旬」にはなかなか難しい時期だが、胴をまるまると太らせたカマスを推奨したい。  七輪の炭火の上でジュウジュウと油のはじける音を立てた塩焼きの風景は子どものころの思い出。何といっても塩焼きが基本だろう。あつあつの身を骨から外して口へ放り込む。幸せ感いっぱい。腰越育ちの私が食べると、残りは見事な頭と骨の教材用標本のようになる。  塩焼きに優るとも劣らないのが干物。魚屋さんで穫れたてを買って自分で開く。くしに刺して一夜干し。ほんとうは太陽のふりそそぐ天日干しがよい。2〜3時間で十分。ひらきは味にまろやかさを加える。ソフトになるといってもよい。  まず皮のついている方を下にして焼く。つぎにひっくり返して身の方を軽く焼く。じつはこの技術は最近学んだ。うまみが逃げないのだという。干物は味をまろやかにしてくれる。しょうゆはかけずにそのまま食べる。海の味が口いっぱいに広がってくる。まさに天然記念物的な美味さだ。  熊本県・水俣湾入り口の仕切り網が消えるという新聞記事があった。網の設置からは23年、水俣病の発見からはなんと41年ぶりのことだそうだ。新聞には、仕切り網にからまり、もがく大カマスの写真が載っていた。スズメダイやアジは網の目をすいすい通り抜 けてしまうのだが、これだけ大きな魚になると、通り抜けは難しい、銀色に輝く体を苦しそうにくねらせ、もがいていた。 外国では鋭い歯で人をも襲い、漁師や水泳する人々の恐怖の的となっているバラクーダと呼ばれる凶暴な種類のものもいる。鎌倉でとれるカマスにはこんな恐いイメージはない。アカマスやヤマトカマスといわれる。それでも尖った口先に精悍さはある。人間の方がよほど凶暴と思っているかもしれない。
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