「『自然』と対話する楽しみ」
私は自然のままというのが、大好きです。ですから絵でも料理でもなるべく自然に逆らわないで、そのままのものと触れ合いたいと思っています。風景画だと、自然がそのまま師匠です。風景その色をつくって描けばいい。変化があれば、変化をかけばいい。そうすれば自然がいい作品を描かせてくれるのです。料理もまた同じで、旬のもの露地のものが一番おいしい。そういうものには素材そのものに力がありますから、私はそれをどうやっておいしく食べるかを考えればいいだけなんです。私はもっぱら風景を描くのですが、ほぼ八割方まで出かけたその場で仕上げてしまいます。朝起きて空みて「今日はいい雲が出ているな」と思うと、画材だけを車に積んで出かけて行きます。6時頃に現場に行ったら9時まで、一気に描いてしまいます。その3時間というのは何物にも代え難いすばらしい時間です。出かける場所はその日の気分によって色々です。稲村ヶ崎から見える富士山。シーズンを過ぎた誰もいない材木座海岸。夕日の沈む江ノ島。春は、衣張山から眺める海も美しいですね。由ガ浜から大船観音まで見渡せますから。絵になるという以前に、こんな景色の中でビールでも飲みながら絵を描けるなんて、とても幸せなことですし。鎌倉周辺にはたくさんすばらしい場所がありますが、中でも一番気に入っている場所は海を望む源氏山です。源氏山から長谷の大仏の方に向かうハイキングコース。この景色は、私の中で一番鎌倉らしい景色なのだと思います。そんな好きな場所というのは、いつ行っても創作意欲を掻き立ててくれます。風景はその日、その日によって違うものなんです。季節の変化はもちろん、雲の表情、光線の具合、そんなものがいつも違った絵を描かせてくれるんです。また、色々な人との触れ合えるというのも、私が頻繁に外で絵を描いている理由の一つかもしれません。通りかかった人が話かけてくる。そこで人との出会いがあるんです。それがまた楽しいんです。今年も妻との二人展を開きました。毎年そうやって知り合った人たちは見に来てくれてます。弟子入りした人もいるくらいです。栃木の山の中で育った私は、修学旅行の時に初めて鎌倉で海を見ていつかは海の見えるところに住んでみたい、そう思ったものでした。ですから鎌倉は憧れの地だったわけです。一時、20代のときに鎌倉に住んだことがありましたが、その後移り住んで、33年ほどになります。だから、という訳ではないのでしょうが、私にとって鎌倉はいつまでも大好きな風景と人々との触れ合いを与えてくれる素晴らしいところなのです。
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