「メイド・イン・鎌倉の心地よさ」
私は江ノ島の近く、鵠沼で生まれました。七五三のときには八幡様に行ったり、小さい頃は夏休みになると葉山プールやマリーナに行ったり、このあたりはいつも訪れている場所でした。
鎌倉に住もうと思った大きな理由は、生まれた場所にも近いということがまずひとつ 。もうひとつは、中学・高校の血気盛んな頃、私の音楽の原点といえるビートルズやス トーンズなどたくさんの音楽を聴いた場所は京都だったということです。ドアを開けると街でありながらお寺や自然がすぐ目の前にある、鎌倉はそんな京都をコンパクトにし たようなかわいらしい街ですよね。そういった風景の中にいたほうが、純粋に音楽を聴 いたときの自分に戻れるような気がしたから音楽を創り出すための環境としてうってつ けだと考えたのです。
そういう意識的な選択とは別に、私にとって決定的な転換があり、それが鎌倉へ移住 する大きな後押しになったような気がします。それは5年前、テレビの仕事でアフリカ に行ったことに端を発します。
ドゥードゥーニジャイローズさんという方の元でタムタム(アフリカの民族打楽器)の勉強をするという番組でした。炎天下で太鼓の練習をするのはとても大変なことなんですが、彼らはテレビの取材のあるなしにかかわらず、いつも太鼓を叩いているのです 。ドゥードゥーニジャイローズさんには4人の奥さんがいて、親兄弟、親戚合わせると300人以上のすごい大世帯。そのどこの家に行っても息子たちが軒先で太鼓を叩いて いて、そうすると隣近所の子供たちが遊びに来て、お母さんたちも遊びにきて、知らな い間に踊り始めて、いつの間にか大パーティになっているんです。
そんな風景を見て、私は一体今まで何に向かって音楽をやってたんだろうと強く思い ました。今の日本の音楽というのは東京一極集中型です。東京でチャートが上がれば全 国ツアーに行ける、といった仕組みになっています。そして私も、常に音楽ビジネスの 世界の中で暗黙の了解というか、そこだけを狙って音楽を作ってきたのではないのか、と。当時、「ヒット」という根っこにすがって生きていくしかないようなそういう状況 の中で、自分がどういう風に音楽をやっていったらいいんだろうかと、すごく悩んでい た時期でもありました。私は今まで自分に余裕がないために、親や兄弟から電話がかかってきも「今忙しいから」とガチャンと切っていました。でも、音楽の本来の姿は自分 の好きな人や親兄弟に届けて「いいね」と言ってもらって、それがまた近所に広がって 、ひとつの大きな渦になって、それが「いいね」「いいね」と広がっていく、そんな気 持ちが音楽の本来の姿なのではないか、と。その象徴的な姿をアフリカで見られた訳で す。そして、これだったら私にも出来るかも知れない、と思ったのです。
帰国してすぐ、様々な東京型の音楽活動に整理をつけました。そして、地元藤沢で「 ファーストクライ」という、産声というタイトルのライブを開き始めました。全国から たくさんの人が来てくれ、その後に青年会議所の人に「白井さん一緒にやりませんか? 」と言って頂いたことが、今年3年目になる鎌倉夏祭に参加するきっかけになりました。
私にとってなによりも嬉しいのは、アフリカで見つけた、地元の人に愛される音楽、 という私にとってとても大きな答え通りに今活動ができているということです。青年会 議所のみなさんと3年間かかってここまできました。町を歩いていると夏祭りの前には 「今年も頑張ってね、楽しみにしているわよ」とか声を掛けられたり、終わった後は「 良かったよー」と。そういう言葉がなによりも嬉しいです。そういう会話が町の人たち と出来ているということは、東京に住んでたら考えられなかったことですから。
もちろん、鎌倉に住んでいて、いいことはいっぱいですが、「もっとこうならないか なー」って不満もあります。
青年会議所のメンバーとも夏祭のたびに喧々諤々もう大変。もっと会議の場で自分の意見を型ではなく、自由に言い合ってほしいと思います。私はどこの土地に行っても、私自身の考えで動き、私自身の言葉でしゃべります。ですから、鎌倉でもやれることをして言いたいことを言っています。
音楽を創作するのに、私には「自然」がとても重要なファクターになっています。だから、という訳ではないのですが、リサイクルということにも、少しだけ時間を割いて います。たまたま道端で見つけた、剪定された木の枝が可愛らしくて、何かに使えない かなと鉛筆を作ったり(正確には作っていただいたのですが)、アルバムやそのポスタ ーの文字を海岸で拾ったゴミで作ったり。私の本業は音楽ですから、その活動の中で自 分でも楽しみながら、やっています。本当にささやかで、やらないよりやったほうがい いという程度なのですが。一枚、二枚とレコードを出すごとにゴミが少なくなっていっ たり、知らない間に川がきれいになったりしていけばいいのだと思います。
鎌倉を選んで、本当によかったと思っています。私は今、私自身のペースで、鎌倉を 実感しているところです。 |