第35回 My 鎌倉 |
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今月のゲスト
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山村 綱廣さん
--- 「刀匠・相州正宗」 第二十四代 ---
鎌倉末期の刀匠として名高い相州正宗
の第二十四代を継ぐ山村綱廣さん・・・
伝統を守る刀づくりの現状を
話して頂いた
[02.11.11 鎌倉御成町・「正宗工芸」にて]
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やまむら・つなひろさんのプロフィール |
鎌倉市出身。刀づくりは師匠の作り方を見て覚えるものだが、山村さんが2才の時父が亡くなり、父の弟から手ほどきを受けた。
若い頃は、アイアンクラフトなどを試したが、そこから一念発起し、刀づくりの神髄を追求するようになった。 |
■刀づくりは総合芸術
刀づくりは総合芸術ですね。
刀は刀身にいろいろ外装がついて、ひとつの総合芸術になります。
刀身を作る刀匠を始め、鞘を作る職人、鍔を作る職人、漆、金細工、など、十
人以上の職人が必要です。
鍔の彫金もまた伝統工芸の粋ですね。
そして、刀を磨く研ぎ師。 この技術も、刀の芸術性を高め、保存のために絶対必要なものです。
昔は各地に研ぎ師がいて、刀の手入れをし、武器としての刀の存在価値を高め
ていました。人を切ったりした後、すぐに手入れをしたのでしょうね。
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■刀づくりの素材と方法
刀身は砂鉄を鍛えて作ります。
昔は砂鉄が日本各地で採れ、各地で製鉄されていたかも知れませんが、今、私
は島根県のたたら製鉄の物を使っています。
あの、アニメの「もののけ姫」で吹いていたあのやり方の製鉄法ですね。
砂鉄からつくった鉄を使わないと刀は出来ません。
砂鉄を採集する仕方は、今は公害問題などがあって、磁石で砂鉄を集める方法
ですが、これだと、鉄だけが純粋に採れ、昔のような刀にはなりません。
不純物があった方が良いのでしょうか。
わたしは以前、今上天皇が皇太子だった頃に、その守り刀を作った鉄をいただ
いて、短刀を作ったことがあります。
戦前のいい鉄で刀を作ると、磨いた時に文化文政の光を帯びるのです。
今のものは磨くと光りますが、ただきれいなだけの光で深みがありませんね。
昔正宗が使った素材がどういうものか、今では判りません。
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(正宗工芸店内)
祖父の銘刀
(正宗工芸の工房)
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一振りの刀をつくるのに1貫700匁の鉄を使い、出来上がりは260匁(バットの重さ)になります。それだけ減ってしまうのです。
期間は約2週間です。
陶芸で陶土を練るように折り返しながら作っていきます。
鉄をあわせたときに空気や何かが入ると駄目になるのですが、行程の7,8割
進んだ、焼き入れのところで、傷が入って折れたりして失敗作だとわかるので
す。
若い頃はなにくそと再挑戦しましたが、今ではしばらく落ち込んでいます。
そんなときの気分転換に、若い頃やったアイアンクラフトが役立ちます。
平成9年に、寒川神社のご神体の製作を依頼されました。
そのときも、十本ほど作り始め、最終的に二振りの刀が残りました。
一振りがご神体、もう一振りがレプリカになりました。
外装に、輪島塗、金粉入り、鍔止めに金無垢など豪華な作りで、職人さんは
こんな仕事はめったに出来ないと張り切っていました。
刀を作るとき使う藁灰、粘土、焼きを入れる炭など、昔はこのあたりで手に
入りましたが、今では藁灰は畳で代用し、粘土は山形の鳥海山の麓から、炭
は岩手から取り寄せるなど、刀づくりも面倒になりました。
■伝統を受け継ぎ、伝える
刀作りの指南書などはないのと同じです。
そもそも技術を盗まれるのを恐れて、秘密主義でやっていますから、焼入れは真っ暗なところで仕事をするんです。
節穴から覗いて切られたとか、水に手を突っ込んで腕を切られたとかという話
が残っていますね。
(綱廣さんの銘)
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秘伝書があったとしても門外漢にはわからないようになっています。
ただ、職人なら仕事場を見たり、道具を見たりすればわかるので、仕事場には
他人を入れたがりません。
言葉で説明しがたいことがいろいろあり、焼きの色は「仲秋の名月の色」なん
ていう抽象的な表現ですが、実際の色を見ると職人にはわかります。
また、焼きを入れるのは2月と8月がよいといわれています。
水の温度が大切なのですが、2月は水桶の表面から霧が立つ加減、8月は日向
水がちょうど良い加減なので、わかりやすいというのです。
道具もすべて手作りです。
自分の使いよいものを工夫して自分で作るんですね。
仕事をするときはふだん着ですが、人が見にくるというときに装束を付けたり
します。
刀匠を育てるには長い年月がかかります。
国家試験があるのですが、実技を5年以上終わらないと受験資格がありませ
ん。
ただ、5年で受けさせることはなく、もっと長い時間をかけてから受けさせ
ます。
どこも後継者難だと思います。
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■良い刀とは
よい刀とは、
- 傷がないこと、
- きれいな波紋が入っていること、
- 品格があること、
- そして抜いた時に大きく見えること、
切ってみたくなる刀はよくない刀です。
美術品のようなもので、大事にしまっておきたい、眺めていたい、そんな刀
が良い刀です。
■正宗工芸の年中行事
- 1月4日の仕事始め、
- 初午の日の稲荷祭り、
- 12月8日のふいご祭り、
などです。
ふいご祭りが12月なのは、
ふいごの神様はミカンが好物なのでたくさんお供えして、お祭りの後は皆さん
に配るのですが、11月始めだとミカンはまだ高価です。
昔はお金がなかったのでミカンの安くなる12月にしたのかも知れません。
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(12月8日ふいご祭り)
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