第37回 My 鎌倉  
今月のゲスト
上野純二さん

上野 純二さん

日本が世界に誇る鎌倉彫!
この鎌倉彫を伝統的工芸品として
後世に残すために日夜関係団体と折衝し
工房活動もままならない上野さんの努力の日々!

・・・ 伝統鎌倉彫事業協同組合理事長 ・・・
鎌倉彫工芸館館長


[03.04.22 鎌倉彫工芸館にて]

うえの・じゅんじさんのプロフィール
1950年北海道生まれ。53才。
鎌倉彫寸松堂に就職。8年間の修行を経て、1980年に独立し制作に専念。 2001年から「伝統鎌倉彫事業協同組合」理事長を務める。
 *鎌倉彫1級彫刻技能士
 *鎌倉彫1級塗装技能士




■鎌倉彫を伝統的工芸品として残したい!


鎌倉彫は「伝統的工芸品」として、国から指定されています。
この制度は、昔から伝わる技法と天然の原料や材料によって作られる工芸品を、「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」(いわゆる「伝産法」)によって保護育成をはかるもので、鎌倉彫は昭和53年に指定を受けました。

ご承知のように、私たちの暮しは、「和」の部分が徐々に減っています。
例えば、お茶を飲むにしても、コーヒーや紅茶、ウーロン茶など次第に多彩になってきています。

鎌倉彫はこの「和」の部分に支えられた工芸品なので、暮しに密着した生活用品としてみなさまに支持されてきました。
鎌倉彫は日常生活に使うように作られたものなのです。
ところが、私達の暮しの中で「和」の部分が少なくなってきており、鎌倉彫全体の売り上げが減少し始めています。
伝統鎌倉彫事業協同組合としてこの減少に歯止めをかけたいのです。

 
(鎌倉彫工芸館
組合員作品の展示即売)
鎌倉彫会館での組合員の作品展示即売

伝統鎌倉彫事業協同組合・鎌倉彫工芸館のホームページ


■生まれは北海道


私は、北海道生まれの九州育ちという珍しい経歴の持ち主です。
東京に住んだこともあります。父の仕事が炭坑関係だったのでこうなりました。

昭和44年頃、鎌倉に越してきて、地に足の着いた仕事をしたいと思い鎌倉彫の道に入りました。サラリーマンになる気はありませんでした。
笹目の寸松堂さんに弟子入りし、彫りを4年、塗りを4年修行させて頂き、一本立ちしました。

■鎌倉彫の伝統を伝えるには


ちょうどそのころから、従来の徒弟制度の代わりに、鎌倉彫会館で訓練校制度というのができ、鎌倉彫の職人を育てるシステムが出来、今30才〜50才ぐらいの働き盛りの人が数多く育ちました。
この人達が、鎌倉彫の伝統的技法を受け継いでいます。
ただ、この人達は一人で工房を構えている人が多く、弟子を育てる環境は十分とは云えません。

大手のお店では、ご自分の販売の範囲で工房を構え、徒弟制度で人を育てることが可能ですが、そういったお店は鎌倉の中でも多くはありません。

ですから、何とか組合と鎌倉彫工芸館で、展示品を販売しながら技術を継承するシステムを作り上げたいわけです。

 
(鎌倉彫工芸館で材料の販売)
鎌倉彫工芸館で材料の販売

■技術の伝承 彫る


(彫る)
彫る
  鎌倉彫で一人前になるには、7〜8年修行が必要です。
彫りと塗りを会得して一人前の鎌倉彫の職人になるには、約15年位かかります。

彫りは、「薬研彫り(やげんぼり)」から入りますが、薬研彫りは、例のV字形に彫る技法です。

彫りの技術は、刀(トウ=彫刻刀)の切れ味に左右されますから、研ぎの技術と砥石の質が非常に重要です。


■刀(トウ)


(上野さんの刀)
上野さんの刀
  私は、道具道楽もあって、刀も、砥石もいろいろ集めています。
刀は、一本研ぎ切ると研ぎが上手くなると云われています。
刀の柄に刀身を埋め込み、研いで短くなった刀身を引き出しながら、柄を削り、柄が短くなるまで使うのです。
私の柄は4寸で終わるように刀身を埋め込みます。 4寸が私の手になじむ柄の長さです。


■砥石 研ぐ


砥石は、東京(浅草)にも砥石屋さんがありますが、京都で行きつけの店が2軒ほどあり、京都に出たついでに買うようにしています。

砥石は、あまり水を吸い込むと割れてくるので、周りに漆を塗っています。

研ぎでも、湾曲している刀の内側(丸刀の内側)は別の砥石が必要です。
大手のお店では、いろいろの職人さんが出入りしているので、私のものより良い丸刀用の砥石があると思います。

 
(砥石)
砥石

(研ぐ)
研ぐ

■うるし刷毛と檜べら


うるし刷毛は人の髪の毛です。
刷毛の毛先をそろえる刃物(塗師刀=ヌシトウもしくはタンバ)も切れ味が良くないと毛先がそろいません。

下地をつける檜べらをけずる刃物も塗師刀を使います。

 
(うるし刷毛)
うるし刷毛

■塗り


塗りの工程はご覧に入れることが出来ませんが、彫りの工程に比べて、3〜4倍の手間がかかります。

塗りには、大雑把に云って、「木地固め(きじがため)」・「下地(したじ)」・「中塗」・「上塗」・「乾口(ひぐち)とり(=マコモ蒔き)」・「艶出し」といった工程があります。

漆は一度塗ると乾くのに一晩かかり、表と裏はそれぞれ別の日に塗りますから急いで塗っても、塗りの工程だけでも3〜4週間かかるのです。

 
(鎌倉彫の工程サンプル)
鎌倉彫の工程サンプル

■原材料は入手難


鎌倉彫は木地と漆が原材料です。

木地は北海道産の桂材(桂(カツラ)の木)を使っています。

北海道産は木目(モクメ)が詰んでいて、彫りやすいし仕上がりもきれいです。
木目(年輪)は1年分が1ミリ位ですから、30センチのお盆の樹齢は300年ということになります。

漆は、外国産が安いのですが、私どもは岩手県の浄法寺の漆など国内産も使います。
組合では共同購入も行っています。
国内産の漆は年々入手難になってきています。

■鎌倉彫振興策は?


先ず、鎌倉彫を生活用品として使って頂く事が大切です。
鎌倉彫工芸館に多くの方のご来場を頂き、展示品を見たり、買って頂いたりして、市民のみなさんに鎌倉彫を使って頂くことが大切だと思っています。

漆の強度は、爪よりやや堅い程度ですから、傷が付くことがあるのですが、傷が付くことが生活の歴史であり、その器の味になるのではないでしょうか。
また、漆は拭くことで磨かれるので、使うほどにつやが出てきます。これを「使いづや」と言います。
つやが出て、家族の付けた傷が残っていたりするのが鎌倉彫の味わいと言えると思います。
夫婦げんかの跡が残るのが鎌倉彫だと思うんです。

次に、技法の継承・改善と品質の維持などが挙げられます。
今の工房は一人親方が多く、弟子をとるゆとりが無い工房も多いのですが、何とか後継者を継続的に育てていきたいと考えています。

さらに、よりよい原材料を確保し、原材料の研究を続け、途絶えないような原材料確保の道筋を付けておきたいと考えています。

ともかく、一度、和田塚の鎌倉彫工芸館にお越し頂き、職人の作品をご覧になって頂きたいのです。



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