坂道
三方からの急な坂道に囲まれた高級住宅地の中に、たった一つ、四階建ての小じんまりしたオフィスビルがある。そこに鎌倉ケーブルテレビを経営しているわが社が入っている。環境は頗るいい。坂道は、東と南と北にあって、どれも自転車では、電動ででもない限り、漕いでは上れない。西側には、小さな山の尾根部分が二、三○メートルの高さで残っていて、それがこの住宅地を街の喧噪から遠ざけている。その尾根の向こう側は、三年前まで松竹の撮影所があった所で、いまは鎌倉女子大学の新校舎が、来年四月の開校に向けて、急ピッチで建設中だ。北側の坂道は、駅や東京方面からのアプローチで、中では一番なだらかだが、距離は長い。東側は所謂鎌倉街道からの入り口で、勾配は最もきつい。南側は歩道のみの狭い道で、民家の生け垣に沿って曲りくねっており、古くからあった生活道路なのであろう。何れにしても、最寄の大船駅からは約十五、六分で、雨さえ降らなければ、徒歩通勤者にとって健康的な距離である。環境はいい、と書いたが、わが社の社員たちの悩みは、昼食の場所である。北の坂下にラーメン屋が一軒、これが一番近いが毎日では飽きる。南側の坂から駅の方向には、七、八分歩けばいくらもあるが、又あの坂を上って戻るのかと思うと、出足が鈍る。止むを得ず、仲間数人集って、車で下山することになる。従って女子社員や世帯もちには、弁当持参がふえている。ここへ社が移ってから、はや二年が過ぎた。
鎌倉ケーブルテレビ広報誌
「チャンネルガイド」 平成14年9月号掲載 |
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