二転三転
去年の11月15日、朝食のとき、冷蔵庫へ何か取りに行こうとして立上がった途端、腰にギクッと痛みが走った。文字通り、ギックリ腰である。もう20年以上前にもなろうか、随分長い間腰痛に悩まされた前歴がある。事の起りは長くなるので省略するが、完全に慢性化してしまって、30分と立っていることが出来ず、パーティの時など、人ごみの中でしゃがみこむような始末だった。人にいいと言われたことは、それこそ遠いところでもいとわず治療に通った。2年ぐらいかかったが、どの治療が効いたのかはわからないが、徐々に痛みが薄れ、それから10数年、腰痛は忘れたようになっていた。
前々からお世話になっている鍼の先生に3回やって頂いたが、はかばかしくない。念のため、レントゲンで骨を調べてもらったが、古傷の椎間板ヘルニア以外に新しい異変はないという。近所で通うのが楽なので、その整形外科の診療所に通って、電気で刺激したり、マッサージなどをやって貰っていたら2週間程で大分楽になり、眞直ぐ歩くぶんにはステッキもいらない位回復した。暮に近づく頃、以前通勤していた会社の忘年会があった。半年離れているうちに、若い新社員もふえていた。お酒も入って、ゲームが始まった。我々世代は、忘年会と言えば、とことん呑んで騒ぐのが相場だったが、近頃の若い世代は呑む一方より男子社員と女子社員の交流がお好みのようで、われわれ高齢者も引っ張り出されて遊んでいた。私も入ってジャンケンのようなゲームをやっていた時、私のうしろにO君の一歳半くらいの子供が近づいたらしく、私がよろけでもしたらと思ったのだろう、O君が危ない!と叫んで子供を抱きかかえてどいた途端、私がふっとバランスを崩して仰向けに倒れた。廻りの人たちも驚いて助け起してくれたが、一時は私もこれで又腰痛をぶり返すのでは、と思ったが、その夜はそのまま帰宅した。
なぜこんな小さなアクシデントを、こと細かに書くのかと思われるだろうが、実はこの転倒の翌朝から、どうしてもとれなかったギックリ腰の痛みがどこかへ飛んで行ってしまったのである。信じなくても、そんなバカな、とお笑いになってもいい。体を右へねじることも、右に体を曲げることも全く出来なかった状態が、一夜にして消えたのである。前夜転んだ時の腰の痛みは、全く違う場所にあったが、それは明らかに前の痛みとは別のものであった。数日後には、この痛みも消えて、スッキリと新年を迎えられるだろうと思っていた大晦日の4日程前の早朝、ミックスペーパーとボール紙の袋を両手に収集場へ歩いていたら、側溝のふたの小さな段差につまづいて、バッタリ前につんのめった。ウォーキング中の若い娘さんがビックリして抱き起こしてくれた。口から血が流れていた。幸い下唇が切れただけの軽傷だった。
やはり去年は、災いの多い年だったのだと妙な納得をしたものである。
山内 静夫
(鎌倉文学館館長)
鎌倉ケーブルテレビ広報誌
「チャンネルガイド」
平成17年2月号掲載
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