元日の朝
不景気の年は初詣で客が多いそうだ。文字どおり“苦しいときの神頼み”である。鶴岡八幡宮の三ヶ日の初詣で客は、例年百七十万か百八十万人で、全国ベストテンの第八位ぐらいをキープしている。石段の下と、社務所前のニヶ所でロープによる規制を行っており、本殿の前にたどりつくまで、時によっては小一時間かかってしまう。
三ヶ日の中では、案外元日が穴で、前夜からの徹夜組が去った後は、一時潮が引いたようになる。若者達を除けば、元日は家で静かに過ごすものなのだろうか。
勤めている会社の慣習で、毎年元日は年賀式のために午前中銀座に近い会場まで出掛ける。この元日の銀座というのが、何とも言えぬ風景である。帰り道、銀座四丁目から新橋の方へ向って歩くのだが、殆ど無人の、やけに道幅だけが広く見えて、実に清々しい街並みなのだ。近年銀座に似つかわしくないファーストフードの店が一、二店、店を開けているが、それ以外では“とら屋”が、いかにも老舗らしくいつも通りの顔で店を開いている。夜の銀座も悪くはないが、元日のひる前の銀座の味わいは、えも言われぬ。
普段は東京から帰って鎌倉駅に降りるとホッとするのだが、元日に限っては、ホームに降りた途端人ごみの波にまきこまれて動きがとれなくなってしまう。正月ならではの珍現象である。
鎌倉ケーブルテレビ広報誌
「チャンネル鎌倉」
平成5年1月号掲載
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