語源
ほんの些細なことが、妙に気になってしまうことがある。数日前の夜、寝床の中で本を読んでいて、おっくうということばを、億劫と書くその語源は何だろうと、急に気になってしまった。起き出して、広辞苑を引いた。
億劫は、オッコウの転とあり、おっこうとは仏教のことばで、劫の億倍、劫は梵語で極めて長い時間の単位、とある。そして、数えつくされぬ程の数、転じてわずらわしいこと、面倒で気の進まないこと、と書かれてある。数の単位なら、億の上は兆で、昔なら気の遠くなるような数だったが、今では日常的な数字になり下ってしまっている。その上は京(けい)で、兆の一万倍、億の一億倍だそうで、こっちはまだあまりお目にかかることがない。劫というのが、こういう単位の一つに入るものかどうか、それすら解らないが、日常何気なく使っていることばの変化、転用とは面白いものだと思った。変な性分で、今度は面倒というのが又気になった。
面倒は、馬道(めどう)の撥音化、馬道を通るのがわずらわしいことからともいう、物事をするのがわずらわしい、転じて世話、厄介、とある。馬道の意味がよくわからないのと、面倒という字を当てた意味も記されてなく、いま一つ納得がいかなかったが、億劫の方は何となく成程と感じるものがあって、すっきりと眠りに入れた。
それにしても真夜中に、布団の上に座って天眼鏡で辞書を引く姿は、はた目には滑稽だろうと思う。でもまあ、億劫がらなかっただけ、よしとしよう。
鎌倉ケーブルテレビ広報誌
「チャンネル鎌倉」
平成6年2月号掲載
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