貴重な体験
「大佛次郎 敗戦日記」(草思社刊)のおかげで、私は五月の連休を殆ど家で過ごしてしまった。この本は、昭和十九年の十月十日に始まり、翌二十年の十月十日までの一年一ヶ月間の、作家大佛次郎さんの日常生活の記録である。終戦という日本の大きな転機を挟んだ一年ちょっとの間だけ、大佛さんは何故日記を書き残したのだろう。今となっては知る由もないが、私は最近これ程興味深く読んだ本はない。感銘を受けたという方がよいかも知れない。何よりも頭が下がるのは、あれ程の作家で、仕事に追われる毎日であるのに、読書による勉強を忘れないことである。それもトルストイ、ツルネーゲフといった作家の古典的名作、当然のことながらとっくに読んでいるに違いないものを丁寧に読み返していることが随所に記されている。大佛さんの真面目で、常に大道を歩み続けようとする姿勢が窺える。
鎌倉ケーブルテレビ広報誌
「チャンネル鎌倉」 平成7年6月号掲載 |
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